ブログ・お知らせ

Blog・News口腔ケア、感染症(加筆修正)

口腔ケア、感染症(加筆修正)
クリックして拡大

口腔ケア、感染症(加筆修正)Close

*今回の内容はある広報誌掲載の原稿を加筆修正し、参考のための引用元リンクもお知らせしているものです。みなさまの健康の一助になれば幸いです。

口腔ケアの重要性

 免疫力が低下してくる高齢者にとって、健康を維持するための口腔ケアは欠かすことができないものです。口は体が必要とする酸素や食べ物の入り口で、生命の始まりとも言えます。今回は口腔ケアの大切さを見直してみましょう。

 

口腔ケアの効果、誤嚥性肺炎と歯周病との関わり

 誤嚥性肺炎は当県においても死因の6位です1)。高齢者は食物や水分を飲み込む、嚥下に関する筋力や機能が落ちているので、誤嚥が起こりやすくなります。誤嚥とは食物や汚染した唾液が誤って気管や肺に入ってしまう状態のことで、就寝時にも知らないうちに汚染した唾液が肺に入ります。しかし、口腔ケアを行うことで、細菌性のプラークや汚染物、痰などを取り除くことができ、口の中が清潔になることで、たとえ誤嚥を起こしたとしても、誤嚥性肺炎は起こりにくくなります2)

 

1) (引用元)年次別にみた長崎県の死因順位(人口10万対)

https://www.pref.nagasaki.jp/shared/uploads/2022/10/1665117320.pdf

2) (引用元)厚生労働省e-ヘルスネット 誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/teeth/yh-011.html

2) (引用元)厚生労働省e-ヘルスネット 要介護高齢者の口腔ケア

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-08-003.html

口腔ケア、感染症(加筆修正)
クリックして拡大

口腔ケア、感染症(加筆修正)Close

口腔ケアの方法と部位

 姿勢 

 頭部を後屈しすぎると気道が開き、口の中の汚染物で誤嚥や窒息が起こりやすくなります(図1)。クッションなどで支え、座位や車椅子の場合は相手の目線より低い位置で口腔ケアを行います(図2)。

 また麻痺や筋力の低下がある場合は体が傾くので、汚染物が気道に流れて誤嚥しないように体をクッションなどで支えましょう。(図3)

口腔ケア、感染症(加筆修正)
クリックして拡大

口腔ケア、感染症(加筆修正)Close

口腔ケア、感染症(加筆修正)
クリックして拡大

口腔ケア、感染症(加筆修正)Close

 

道具 

 通常の歯ブラシや歯間ブラシの他に、「くるりーな3」」「スポンジブラシ」などがあればケアしやすいでしょう。

 実際の使用方法については以下のサイトをご参考ください。

 

3)(参考)くるリーナブラシ

https://www.oralcare.co.jp/product/post-20.html

3)(参考)くるリーナ使い方ガイド~機能的口腔ケア~

https://ocmedical.jp/library/movie.php

 

ケアする部位と方法 

 上述のような道具を使い、歯や歯ぐきだけでなく、お口全体の奥から前へ、痰や汚染物を絡め取ります。粘膜や舌、舌下部の掃除も大切です。咽頭付着物・痰の成分は口の粘膜などの剥がれた上皮組織がほとんど4)で、また、舌も汚れていると、細菌が多いことも分かっています5)。舌を強く掃除してはいけませんが、丁寧に汚れを取りましょう。

 舌の上の白い汚れである舌苔ぜったいは2週間程度清掃を行うとなくなってきます。最後に口の中の乾燥を防ぐため保湿剤を塗ります。

4)(引用元)口腔乾燥の要介護高齢者における咽頭の汚染物の病態解明と予防法の確立

https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15K11436/

5)(引用元)口腔ケアの評価指標とreal−time PCR による舌苔中細菌数との関連

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jdh/56/5/56_KJ00004494281/_pdf

口腔ケア、感染症(加筆修正)
クリックして拡大

口腔ケア、感染症(加筆修正)Close

口腔ケアの相談 

 口腔ケアはケアスタッフのみならず、ご家族や介護をされる方のどなたでも行って良いものです。喉の奥の咽頭の痰まで取ることができれば理想的ですが、奥まった部位はかえって汚れを押し込んでしまうので、慣れない人には困難でしょう。

 口腔ケアの正しい方法を知りたい場合は、歯科衛生士や施設のスタッフに相談をしましょう。歯科医師や歯科衛生士が訪問することで口腔ケアを行なってもらうこともできます(訪問歯科診療6))。

 

6)長崎県歯科医師会 デンタルネットシステム(訪問歯科診療お申込みシステム)

https://www.nda.or.jp/dentalnet

口腔ケア、感染症(加筆修正)
クリックして拡大

口腔ケア、感染症(加筆修正)Close

歯周病の全身への影響と注目の歯周病細菌フソバクテリウム・ヌクレアタム

 45歳を超える多くの日本人が歯周病を抱えていると言われています。歯周病は全身の炎症に関与するほか、血管内に血栓を作ります7)。糖尿病8)や動脈硬化症、高血圧、狭心症、心筋梗塞、脳血管疾患などの多くの病気と関連しているとされ、近年、歯周病への関心はより高まっています。

その歯周病の原因菌のひとつ、フソバクテリウム・ヌクレアタムは血流を介して体内に広がり、大腸がん9)、膵がん、子宮内膜症10)の発現に関与しているとされています。

 

7)(引用元)特定非営利活動法人日本歯周病学会

歯周病が全身に及ぼす影響

https://www.jacp.net/perio/effect/

7)(引用元)日本歯周病学会ガイドライン 

https://www.perio.jp/publication/upload_file/guideline_perio_2022.pdf

8)(引用元)糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン 改訂第 3 版 2023

https://www.perio.jp/publication/upload_file/guideline_diabetes_2023.pdf

8)(引用元)糖尿病患者の血糖コントロールのための歯周炎の治療(英文)

Simpson TC, Clarkson JE, Worthington HV, MacDonald L, Weldon JC, Needleman I, Iheozor-Ejiofor Z, Wild SH, Qureshi A, Walker A, Patel VA, Boyers D, Twigg J : Treatment of periodontitis for glycaemic control in people with diabetes mellitus. Cochrane Detabase Syst Rev, 4 : CD 004714, doi : 10.1002/14651858.CD 004714. pub 4, 2022.

8)(引用元)高齢者糖尿病診療ガイドライン2023 編・著 日本老年医学会・日本糖尿病学会 P.65

9) Gut. 2019 Jul;68(7):1335-1337. doi: 10.1136/gutjnl-2018-316661.

Sci Rep. 2021 Dec 9;11(1):23719. doi: 10.1038/s41598-021-03083-4.

10)(引用元)フソバクテリウム細菌感染は子宮内膜症の発症を誘導する — 子宮内膜症治療に新たな光!—

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/research/pdf/Sci_230615.pdf

10)(引用元)Iron accelerates Fusobacterium nucleatum–induced CCL8

 expression in macrophages and is associated with colorectal cancer 

progression

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9675438/

口腔ケア、感染症(加筆修正)
クリックして拡大

口腔ケア、感染症(加筆修正)Close

口の周りに関連するウィルス

 パピローマウィルスHPV 

 子宮頸がんの原因とされるHPVは中咽頭がんの原因のひとつでもあります11)

 

11)(引用元)HPV関連中咽頭がん 世界で急増中!ワクチン接種が“予防の要”

https://www.jibika.or.jp/owned/contents7.html

口腔ケア、感染症(加筆修正)
クリックして拡大

口腔ケア、感染症(加筆修正)Close

 インフルエンザウィルス 

  歯周病はインフルエンザを誘導することが分かっています。口腔ケアによるインフルエンザの予防効果について、要介護高齢者に対して歯科衛生士が口腔ケアを行った場合、インフルエンザにかかりにくくなった、という報告もあります12)

 

 新型コロナウィルスCOVID-19 

 唾液や唾液腺にその存在を認めますが、現在のところ、インフルエンザとは感染経路が違うことから、口腔ケアで新型コロナウィルスは予防することはできないと考えられています。

 しかし、全身疾患を有する新型コロナ肺炎の患者において、またその死者や人工呼吸器装着患者においても、歯周病患者は多い傾向であることも分かっています12)

 口腔ケアで新型コロナウィルスの感染は予防をすることはできないとしても、歯周病を軽減することで、重症化を防ぐ可能性もあるかもしれません。

 

12)(引用元)厚生労働行政推進調査事業費 厚生労働科学特別研究事業

新型コロナウイルス感染症等と口腔内状態及び歯科保健医療の関係性の検証のための研究 令和3年度 総括・分担研究報告書

https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/20CA2071-sokatsu-1.pdf

 このように口腔ケアはむし歯の予防、歯周病の予防、誤嚥性肺炎の予防のほか、細菌が原因とされるがんなどの病気、ウィルス感染の病気の発症を未然に防ぐ可能性に繋がります。

 お口の健康を維持し、食事がおいしく食べられることで免疫力も上がり、新型コロナ肺炎やその他の病気の重症化に対して抵抗力が付くことも期待できます。

口腔ケア、感染症(加筆修正)
クリックして拡大

口腔ケア、感染症(加筆修正)Close