Blog・Newsアフターコロナ① 口臭検査と口渇に対する漢方の処方
先日、春休みに語学研修に行った中学生・高校生から「海外ではマスクをしている人はほとんどいなかったよ」と聞きました。日本でも
新型コロナウイルス感染症の位置づけは、これまで、「新型インフルエンザ等感染症(いわゆる2類相当)」としていましたが、令和5年5月8日から「5類感染症」になりました。マスクの着用をはじめとする基本的な感染対策については、個人や事業者の判断に委ねることを基本としつつ、その判断に資するものとなりました。*1*2*3
参考: *1厚生労働省hp 「新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後の対応について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/corona5rui.html
*2厚生労働大臣公表文書 「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る 新型インフルエンザ等感染症から 5 類感染症への移行について」
https://www.mhlw.go.jp/content/001091810.pdf
*3「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の 感染症法上の位置づけの変更について」
https://www.mhlw.go.jp/content/001091819.pdf
クリックして拡大
Close
コロナ禍におけるマスクの着用は人格形成やコミュニケーションという面にも大きく影を落としたと考えますが、ある幼稚園の歯科健診の場で、園児たちには歯科医師である私の指示が通りませんでした。恥ずかしがり屋さんということではなくて、第三者の言葉を受け取れない印象を受けました。他方、他の園児縦割りのクラスの所では、小さい子から年長さんまで指示がとてもよく通りました。
その差は他者との直接的な会話があったかどうか、と考えます。他人の感情や意思を表情から読み取り、同意、理解、共感し、コミュニケーションにつなげる、ということがマスク着用の社会情勢で、欠落してしまったのでしょう。(個々の成長の問題ではないと考えます。)
NHKでSEL(Social Emotional Learning・社会感情学習 )*4について触れている番組がありました。日本では「社会性と情動の教育」といわれるそうです。近年では、アメリカを中心にイギリスやカナダなど学校で行われている教育プログラムです。クラスを学年混合で編成し、ひとりひとり順番に嬉しかったこと、嫌だったことを正直に話して皆と共有していき、最後にフリータイムを設けコミュニケーションを取る、というような形でした。これにより社会性(コミュニケーション力)を得たり、感情の共有を行えるようになるというものです。
一方、日本のみならず、世界でも、子どもたち(〜青年期)の中にはコロナ禍において顔がマスクで覆い隠され、表情が読めなかったり、伝えられなかったりしてして、対人不安、コミュニケーション不足になってしまっている子もいるとのことでした。*5
参考:*4 SEL : Social–emotional learning
https://en.wikipedia.org/wiki/Social–emotional_learning
*5 Rapid Systematic Review :The impact of Social isolation and Loneliness on Mental Hearth of children and Adolescents in context of COVID-19
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32504808/
クリックして拡大
Close
アフターコロナに対する歯科的なアプローチは、マスクを外すことによる「対人不安」「コミュニケーション」も含めて、考えていかなければいけませんね。
1)マスクがない会話と口臭と口渇対策
2)マスクがない豊かな表情と審美的な口元
歯科医師として考えるQOL(Quality of Life :生活の質)の向上は、みなさんが、「他の人とのつながり」を感じて、「自らの居場所」を見つけるために円滑なコミュニケーションを助ける、ということになると思います。マスクを外して、笑顔で感情豊かにコミュニケーションを行えるように。
今回はまず、、、
1)マスクがない会話と口臭と口渇対策
について、特に口臭と口渇対策について述べていきたいと思います。感覚的に敏感な人や子どもたちは他人の口臭が気になることも多いようです。またマスクで口の中が湿潤していたものがマスクを外すことで、外気に晒され、口が渇く「口渇(こうかつ)」の状態にもなる人もいるようです。
クリックして拡大
Close
口臭について、当院にはオーラルクロマ®という半導体ガスセンサーを利用した簡易ガスクロマトグラフィー方式の医療機器があります。
https://www.fisinc.co.jp/products/oralchroma.html
オーラルクロマ®という機器について、論文なども10年以上前からあり、信頼のおける医療機器です。*6
参考:*6 東京歯科大学千葉病院口臭外来受診患者の最近3年間の臨床統計 https://ir.tdc.ac.jp/irucaa/bitstream/10130/2746/1/112_165_2.pdf
オーラルクロマ®は、口腔ガス中の主要口臭成分とされる揮発性硫黄化合物(VSC)を3要素ガス(硫化水素・メチルメルカプタン・ジメチルサルファイド)に分離し、その濃度を測定する口臭測定器(VSCモニタ)です。
当院では現在は自由診療の初診料3,300円(税込)に加えて、口臭検査料5,500円(税込)で行っております。
通常の他の機器としては舌の汚れ、口腔内の汚れに関係する硫化水素、歯周病、むし歯(う蝕)に関係するメチルメルカプタンなどは検出するのですが、この医療機器の優れた点として、消化器系の内臓の匂いや服用薬に関係するジメチルサルファイドのほか、肝機能状態、脂肪代謝に関係するといわれるイソプレン、二日酔い、アルコール系薬物摂取時に検出される有名なアセトアルデヒドなども検出する事が可能な点です。
ただし、検査のための事前の条件も記載の通りです。ご確認ください。
クリックして拡大
Close
口臭に関して、オーラルクロマ®の検査で一般的にはほとんど検出できるのですが、先日はオーラルクロマ®で検出できない口臭の相談がありました。背景について丁寧なヒアリングを行い、判明した原因は、その方の営業上の多弁(よく話す事)による口渇、口腔乾燥によるものでした。
このケースは以下の2パターンで対応しました。
1)口腔内の保湿剤の使用
2)漢方薬の処方
1)口腔内の保湿剤の使用について、当院において在宅の口腔ケアでよく使用するオーラルピースをご購入いただきました。https://oralpeace.com/lineup 保湿剤は好みの相性が良く問題なく応用でき、好評でした。
2)漢方薬の処方について、保険診療で処方を行います。
歯科における「口腔乾燥症」の保険適応の漢方薬として①五苓散と②白虎加人参湯があります。どちらも口腔乾燥に対する代表的な漢方薬です。このケースは口腔内のみならず、舌の状態にも乾燥を認めた為、②白虎加人参湯を処方することとなりました。これは糖尿病、シェーグレン症候群、向精神薬、抗不整脈の放射線治療による口腔乾燥症に対しても有効とされています(⚠️注意:全身に関わる病気そのものを治すものではありません)。体のほてりや、疲れやすい、多汁、脱水症状や軽い寒気などを訴える場合などに適応します。
クリックして拡大
Close
クリックして拡大
Close
このケースの治療の場合は著効し、患者さん自身による口腔内のコントロールとメインテナンス(歯磨きなどブラッシング)も行われている為、漢方薬の処方もいずれ止められるものと考えられます。
(しかしながら、このケースの治療が患者のみなさんすべてに平等に治療効果を保証するものではありません。ご理解ください。)
歯科が漢方薬を処方することについて、意外に思われる方もいると思いますが、実は症状に応じて11種類ほど処方します。*7
①立効散(りっこうさん):歯痛,抜歯後の疼痛
②半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう):口内炎
③黄連湯(おうれんとう):口内炎
④茵陳蒿湯(いんちんこうとう):口内炎
⑤五苓散(ごれいさん):口渇(口腔乾燥症)
⑥白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう):口渇(口腔乾燥症)
⑦排膿散乃湯(はいのうさんきゅうとう):歯周炎 (ここまで*7)
⑧葛根湯(かっこんとう):神経痛をともなう顎関節症
⑨芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう):筋肉痛をともなう顎関節症
⑩補中益気湯(ほちゅうえっきとう):術後(抜歯など)による体力低下
11十全大補湯(じゅうぜんたいほとう):術後(抜歯など)による体力低下
参考:*7 日本歯科医師会ホームページ
https://www.jda.or.jp/park/trouble/kanpou03.html
参考文献:日本歯科医師会ホームページより
王 宝禮,王 龍三:今日からあなたも口腔漢方医 - チェアサイドの漢方診療ハンドブック - ,医歯薬出版, 2006
王 宝禮,王 龍三:続今日からあなたも口腔漢方医- 口腔疾患別漢方診療ハンドブック-,医歯薬出版, 2012
クリックして拡大
Close
アフターコロナもそうですが、歯科医療は時代に必要とされる形が変化していることを少し感じます。
今回の内容が皆様の何かに繋がり、生活の質が向上すれば幸いです。
マスクがない豊かな表情と審美的な口元についても、まとめ次第アップしていきます。