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Blog・News講義「在宅治療における歯科医師の役割」その3

講義「在宅治療における歯科医師の役割」その3
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歯科と栄養の関係についてもお話ししました。

歯科において、必要とされる栄養指導をライフステージ別にお話ししていきます。

小児期においては「食育」を通じた対策、間食のコントロール、メタボ対策

成年期においては特定健診・特定保健指導(40〜74歳)などを通じた「過栄養」メタボ対策

このように健全な成長であったり、健康の維持という点で歯科も関わっています。

そして高齢期においては介護予防事業(65歳以上)などを通じた「低栄養」対策、

前期高齢者(65〜74歳)では「過栄養」対策から栄養が足りない「低栄養」対策へのギアチェンジが必要となります。

これにはカロリーの問題も含まれます。

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そして歯の数と栄養の関係です。

参照文献は「臨床歯科栄養学
―歯科に求められる栄養の基礎知識ー」(著:花田信弘)です。

 

歯が28本揃っている人を100%の栄養状態と基準にします。

棒グラフの4本はそれぞれの歯の本数を分けてありますが、わかりやすいようにひとまず一番左の棒グラフ歯の数が0本のものを基準にしてください。

歯の数が0本の人が28本100%を上回っているのは炭水化物だけです。

ミネラル・ビタミン類と食物繊維に関して現在歯数(歯の数)が少ないほど摂取量が少ない反面、
炭水化物では現在歯数(歯の数)が少ないほど摂取量が多い傾向があります。

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つづいての食品群別のグラフです。

歯数が少ない群では種実・果実・きのこ類の摂取量が少ない反面穀類・いも類の摂取量が多いことが示されました

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以上のことが何を表しているかというと、

歯数が少ないと比較的噛みやすい炭水化物が豊富な食品の摂取が多くなり、

体を維持するためのタンパク質などの栄養摂取できずに「低栄養」の状態となる、ということが言えます。

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食べてもらいたいのはタンパク質、BCAA ロイシンなどです。これらは筋肉を維持する働きがあり、牛肉やチーズ、牛乳、アジ、カツオなどに多いようです。

 

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何らかの理由でタンパク質の摂取が足りず、不十分な場合はこのような栄養補助食品を勧めたいところです。

しかし、このように補食の製品はあるものの、私たち歯科医師は口から食べる喜びを守りたいと考えています。

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在宅における食事や栄養、姿勢について、考えてみたいと思います。

講義の中で「死ぬまで噛んで食べる」(著:後藤朋幸)という本も紹介をさせていただきました。20年以上、東京の新宿で在宅に関わっている先生です。

 

食べるためには、単に口腔内に着目するだけではなく、姿勢保持や家具・ 器具、栄養面での配慮など多方面からのアプローチが必要となってきます。そのためには、医師、歯科医師、薬剤師、看護師、管理栄養士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、ケアマネージャー、ケアスタッフなど多職種 連携が重要であり、この本にはそれぞれの職種の役割などがわかりやすく紹介されています。 

 

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ここで高齢者によくある円背(えんぱい)について見てみたいと思います。
(円背と咳嗽力についての2021年に発表された論文より参考にしています。)

【論文情報】 Hiromichi Takeda, Yoshihiro Yamashina, Kazuyuki Tabira 
Relationship between kyphosis and cough strength and respiratory function of community-dwelling elderly 
Physiotherapy Theory and Practice, 2021.

 

私はこの論文は印象深かったので、注目していて、自分でしっかりと気管に入った異物の喀出や誤嚥防止をできていると、ひいては誤嚥性肺炎の回避につながることの裏付けだと考えています。

〜論文より〜

円背(えんぱい)というのはこのように腰から背中、肩が曲がった状態を言います。

円背高齢者では咳嗽力、肺活量、呼気筋力、吸気筋力、胸郭拡張差で有意に低い値となっていました。
また、円背の重症度と咳嗽力、呼気筋力、吸気筋力、胸郭拡張差には有意な相関関係がありました。
さらに年齢と性別の要因を調整した後では、咳嗽力には肺活量や胸郭拡張差が関連していることがわかりました。   

…ということです。

口の周り・舌・飲み込みの筋力低下している方に対しての訓練は歯科衛生士の他に言語聴覚士や看護師など多職種が連携し、訓練を行う必要性があります。

 

そこで私が実際に施設で経験した一例についてお話しします。

 

施設の看護師より、姿勢保持がキツくて食事を食べ続けられないと相談を受けました。
左の写真が普段の状態でした。

認知症もあり、右手で左の肘かけを強く掴み、円背で、腰が折れるように屈曲しています。体幹は左に流れ姿勢が崩れ、全身のバランスを取るために力が入り、食いしばりもひどい状態でした。

みなさんも自分の足を浮かせて、左に傾いて寄ってみてください。体の不安定さが実感できると思います。その状態で前屈みになり食事をするのは困難です。

食事のためには姿勢の保持が必要ですが、私はクッションを入れるくらいしか思いつかなかったので、

知り合いの作業療法士さんに写真を撮って送りました。幸いすぐ返信が来まして、右の写真のような状態になりました。

姿勢を改善した直後の写真です。改善ポイントを説明します。

クッションを右肘の下に置いて安定させ、足置きを外して「足底接地」させています。

大腿部下部はタオルで補強し安定させ、お尻を引いて骨盤を安定させて座れるようにタオルで補強しました。

1番のポイントだったのは車椅子の背面シートです。みなさんは車椅子の背面シートが調節できるのを知っていますか?

この方は円背の傾向が強かったので、車椅子の背面シートの(マジックテープ)を緩めて円背に対応しました。

この車椅子の背板が調整できることは長年携わっている施設の看護師さんやスタッフさんも知りませんでした。

座り方、姿勢というのは何をするにしてもとても大事ですが、やはり理学療法士や作業療法士などセラピストのような専門職でないとわからないことは多いでしょう。

ですから、顔が見える関係で多職種が連携し、問題に向き合うことは今後はとても大切なことになってきます。

 

 

 

 

 

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ではどうやって歯科に情報を伝えたら良いでしょうか。

長崎県のお口のチェックシートについて説明します。

これは長崎県歯科医師会のホームページからダウンロードできる「お口のチェックシート」です。

歯や口腔に関することが分からなくても、症状が確認できれば、
歯科受診の必要性について確認できます。

 

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ステップ1は口腔ケアの必要性についてです。
特に詳細に口の中を見てもらう必要はありません。
□ 歯磨きがうまくできない
□ ぶくぶくうがいがうまくできない
□ 入れ歯の清掃がうまくできない
□ 口が渇く
□ 口臭が気になる
□ 舌の色が気になる
□ 肺炎を繰り返している
□ 他に口で気になることがある


これらのことを調べてもらいます。

ステップ2は歯科受診の必要性についてです

□ 口の中に痛いところや,しみるところがある
□ 歯が欠けたり,かぶせ物が取れたりしている
□ 歯が抜けたままになっている
□ 歯ぐきから血が出たり,歯ぐきが腫れたりしている
□ 歯がぐらぐらしたり,浮いたような感じがする
□ 入れ歯の調子が悪い。入れ歯が壊れている
□ 硬いものが食べにくい。食事に時間がかかる
□ 食べ物が飲み込みにくい。飲み込み後も口に残っている
□ 食事中にむせやすい。のどがゴロゴロいうことがある
□ 最近 体重が減ってきた(食べる量が減ってきた)
□ 声がガラガラしていることが多くなった
□ 熱が良く出るようになった

 

今回、写真や図は全部載せきれませんが、お口のチェックシートについてはぜひご活用いただきたいのと、これらの内容が皆様の知識の一端に加わることがあれば、幸いです。